基礎編
2.風


風は気象に最も影響を与える要素の一つである。しかし、地上の風は最も予想しにくい要素の一つでもあるのだ。それは主に地形が関係しているからである。気象庁のどでかいコンピューターではビミョーな地形情報は与えられていない。中部山岳地帯などは平均化されて標高1500メートルほどの巨大な台地と化し、低めのキリマンジャロのようで何だか哀しい。平野部もせいぜいモザイク状である、と言ったらわかってもらえるだろうか。そんな具合ではあるが、風についてよく知ることは、特に山の天気では重要であり、地形を把握しておけば予想の正確さが増すことは間違いないのだ。


1.風って何?
風は空気の移動のことである。空気が余っている状態を高気圧、不足している状態を低気圧と考えてみよう。すると、風の吹く原理はいたって簡単、その過不足を埋めようというわけである。

風は気圧の高い方から気圧の低い方に向かって吹く
これが基本。


2.強風と突風
急な下り坂ではスピードが出るのと同じで、気圧の差が大きいとその間では 強い風が吹く。風の強さは天気図の等圧線を見ると大体分かるということである。地形図の等高線のように見ればいいのだ。すると、

等圧線の間隔が狭い地点では強風が吹く
ことになる。強風が吹くものには台風や発達した低気圧などがあるが、これらの中心付近では確かに等圧線が密集している、ということで理解できると思う。

強風とは単に強い風のこと、天気図などで大体分かる。

突風とは「突然吹く強風」と考えると良い。心の準備ができていないため危険であり、「強雨」と同様予測しにくい。なぜならば原因が同じ「背の高い雲」だからである。


3.四季の風
日本の上空にはジェット気流という西風が吹いていて、その位置や強さは日々変化しているらしい。前から名前くらいは知っていたが「めったに飛行機は乗らないから俺カンケーねーや」と思っていた。ところが、成田香港間の所用時間だけかと思っていたら、日本付近の気象はすべてこのジェット気流に支配されている、ということが判明し「む、なかなかやるな」と見直したのである。さて、風というのはこのように壮大なものからほんの狭い地域で吹く局地風(「六甲おろし」「やませ」「シロッコ」などそれぞれに名前がつけられていたりする)といわれるものまで様々である。ここでは我々が四季折々に経験するものを挙げてみた。


爆発的に発達する低気圧が本州南岸を通過し(これを南岸低気圧というが、かつては台湾坊主と呼ばれていて、山小屋のオヤジなんかは現在もこの名で呼んでいるかもしれない)、これに向かって強い南風が吹く。「春一番」はこのうちで一定の基準を満たしたものである。毎年春一番が吹くと、各キャスターはここぞとばかりにその基準の説明をし、ワタクシとしては「うるせーなあ、もう」とうんざりする。しかもその夜飲みに出掛けると、あちこちの席でその請け売りが繰り広げられており、「るせー、るせー」と心の中で叫ぶことになる。というわけで、ここではその基準は申し上げないのであるが、天気予報の社会的影響力が意外にも強いことをあらためて感じる一幕である。


…オホーツク海に高気圧があるとき、東北から関東の太平洋側にはこの高気圧から湿った冷たい風が吹き込む。こうなるとはっきりしない天気となり、夏にもかかわらず気温の低い状態となる。これが農作物に被害を与える「冷害」を引き起こし、この風は「やませ」と呼ばれている。涼しくなっていいだろ、などと言ってる場合ではないいやな風である。でっぷりと太った社長が新入社員に「諸君、我が社に新しい風を吹き込んでくれたまえ、がはは」とのたまうことがあるが、こんな風は吹き込んでもらいたくないものである。


秋は台風の季節。台風周辺では中心の東側で特に風が強くなる。ゴミ、看板、猫、自動車などいろいろなものが飛んでくるが、山では小屋の屋根などが飛び、あたかも空飛ぶじゅうたんの如しである。また、TV局では台風を利用して、新人のアナウンサーを防波堤に立たせ「次第に風があー、つよくう、なってえ、ぎゃああー!」と叫ぶ研修を行うことになっている。

上空のジェット気流が活発になり、高山稜線では想像以上の強さの 風が吹き荒れる。では想像以上とはどれくらいであるのか、と言われると困るが、高度10000mではジェット機が飛んでいるわけだから、人が飛ぶくらいであろうと考えるのが妥当だ。かく言うワタクシも飛んだことがある。



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