実践編

1.山に行く前には?


1.都会で見る天気予報
フツーの人は山に行く前日の夜、当日の朝にはTVの天気予報を見るであろう。ここでは、そのとき何に注目したらよいか、またどんな点に注意したらよいのであるか、ということを説明する。

まずは資料の整理をしてみよう。TVでは時間帯によって詳しさが違うのだが、最も多くの資料が見られるときは以下のものがある(NHKの場合)。ここで注意したいのは資料が過去のものか現在のもの(「実況」という)か、または予想なのかということである。過去のものと現在のものは予想と比較して今後の流れを考えるために用いるのである。予想だけでもよさそうなものだが、予想がハズれた場合は流れを考えることによって山行中に自分で修正できるのである。

資料名 区分 用途
1. 地上天気図 実況・予想 気圧配置で大まかな流れ・傾向を知る
2. 「ひまわり」画像過去・実況 雲の動きで大まかな流れ・傾向を知る
3. レーダー・アメダス降水実況 雨域の細かい範囲・雨の激しさを知る
4. アメダス・風/波 実況 参考程度
5. アメダス・気温 実況 参考程度
6. 各地天気・降水確率 予想 目的地の天気の大まかな傾向を知る
7. 各地最高/最低気温 予想 参考程度
8. 週間予報 予想 「また昨日と違うね」と家庭だんらんのきっかけを作る

*前3時間までは実況ということにしている。

用途の説明で分かるように、出発前に見る天気予報は山行中の大きな流れを掴むため、もしくは家族のご機嫌をとるためのものである。しかし、たいていの人は6.の「各地天気・降水確率」しか真剣に見ないのである。「いや、花粉情報も見るぞ、ふぇ、ふぇっくしょん!チキショーメ」という人もいるかもしれないが、まあいい。とにかく「各地天気・降水確率」でわかるのはせいぜい「最高というわけにはいかない」あるいは「最悪ってことはない」ということだけである。しかもこれがハズれたら、その後の天気はさっぱり読めなくなるという性質のものなのだ。実は本当に必要なのは1.や8.のように大きな流れを表すものである。
ところで、ここでヒジョーに大きな問題が出てくる。それは仕事で夜遅く帰ってくるとこんなに詳しい天気予報はやっていない(天気予報自体やっていないことも)、しかも山に出掛ける朝は早いのでまたまたマトモな天気予報はやっていない(東京30%などと静止画像の片隅に表示してあるだけとか)、そういったときはいったいどうしてくれるのか!ということである。実際自分もこのクチで、その気持ちは大変よく分かるのである。しかしひとまずここは穏便に、5時に仕事を終えてすぐ帰宅し、近所で美人と評判の女房の酌でビールでも飲みながら7時少し前の天気予報を見る、という何ともシアワセな生活を想像しつつ読んでもらいたいのである。「どうしてくれるのか!」の方々は新聞を見てみよう、簡単な予報と天気図が載っている。実際TVでもこれくらいしか見ないのだ。

<参考資料の見方>
地上天気図
地上の天気であるから山とは異なるのだが、天気の流れと傾向を知るだけなのでその点は気にしなくてよい。注目すべきものを季節ごとに示してみた。注目した内容についての詳細は基礎編「大きいスケールの現象」を参照してほしい。

通年
低気圧は通年現れる。その位置、それに伴う前線の位置を見る。天気図に低気圧が表れていなくても、上空の気圧の谷、寒気は予報屋が解説を加えるので要注意。 また、春から夏にかけてはオホーツク海に高気圧が無いかどうかを見る。


特に春の低気圧は各地に多種多様な影響を与える。「雨」「雪」「風」「気温上昇による雪崩」などである。その進路(矢印が書いてある)に注目して、目的の山がどういった影響を受けるかを考える。また、日本列島に二つまとめてあるときは (二つ玉低気圧という)全面的に悪い。

梅雨
当然梅雨前線の位置である。また、あまりあてにはならないが、北上傾向か南下傾向か、あるいは停滞かが分かると尚良い。


太平洋高気圧の西側への張り出し具合を見る。強いほど晴れて暑くなりビールがウマイが、夕立の可能性も多くなる。

秋雨
秋雨前線と台風の位置である。台風の動きは予報があてにならないので近づいたら注意する。


目的の山のすぐ西にあるのは高気圧か低気圧かを見てみる。秋雨以降は台風に邪魔されない限り、交互に東に進んでくる。


冬型が強いかどうかを見る。等圧線の間隔が狭ければ強い。

恋の季節
天気図など見ている場合ではない。


「ひまわり」画像
向日葵の絵のことではないのだ。雲画像のことである。本来は赤外・可視等何種類かあり、雲の高さや厚さなどが分かるのだが、一般向けのものは合成されていてそれは分からない。単に雲はどの辺にあるのかということを知っておくためのものである。天気図との対応しているので、それが分かってくるとどちらかを見るだけで事足りるものである。ここでも季節ごとに注目すべきものを挙げていこう。

通年
低気圧の雲は発達の段階によって形が違う。渦を巻いているとすぐ分かるが、これは最盛期である。台風と間違える人がいるが、形は明らかに違う。

梅雨
梅雨前線の雲は東西に帯状に伸びている。


東北から関東沿岸のみにかかっている雲はオホーツク高気圧から吹き出す北東気流による低い雲である。

秋雨
秋雨前線の雲は梅雨前線の雲とよく似ている。


台風の雲は一目で分かる。中心もさる事ながらスパイラルバンドという螺旋状の雲に注目。


冬型に伴う「すじ状の雲」をよく見る。雲のできはじめが大陸に近いほど寒気が強い。またすじ状の雲が太平洋に抜けているときはかなりのものである。


週間天気予報
ご存知の通り、ほとんど当たらない。しかし、天気の傾向を知るには手っ取り早いので、一応頭に入れておく。ただし、一度ハズレたら、それ以降は全く違った流れになる。


「当たる予報」と「当たらない予報」
これを知っていると、なかなか役に立つのである。普通の人は天気予報といえば降水確率くらいしか見ないだろうが、少し勉強した人はその天気の原因となっている「大きいスケール」の現象を見極めて欲しい。それが何であるかによって、予報の信頼度が違うのだ。おおざっぱに言うと、ワタクシの場合以下のように分けている。
当たるもの
低気圧、移動性高気圧、冬型に関連した予報
当たらないもの
停滞前線(梅雨・秋雨・なたね)、台風に関連した予報、雷など小さいスケールのもので半日以上先の予報
現象のスケールが大きく(大きすぎても当たらない)、その寿命が長いほど動きが予想しやすい。逆に、スケールが小さく寿命の短い積乱雲関連、つまり雷などの予想はしにくいのである。また、近い未来の予想ほど当たる(当たり前)。この2つのポイントを考慮すると、やはり「半日くらい先の低気圧の動き」が得意なのもうなづけると思う。最近では予想が難しいとき「自信がありません」と正直者のふりをして、責任逃れをする予報屋が増えて困る。あとで「難しかったんです」なんて言い訳するヤツもいるが、おまえらプロだろ!(ハズレても知らんふりするのがいちばんよくないか?)

天気予報のハズレ方
これにはいろいろな種類がある。行動中に自分で予想を修正するには、この点を意識する必要があるのだ。
「大きいスケール」の予想がハズレる
あまりないのだが、こうなった場合、コンピューターにはその後の予報がハズレやすくなるくせがある(理由があってそうならざるを得ない)。たとえば、天気予報が大ハズレした翌日の予報はあまり当たらない。注意してみるといいだろう。
「大きいスケール」の予想は正しかったが、「小さいスケール」の予想がハズレる
これが一番多い。どういうことかというと、たとえば、雨の予報が出ていて、低気圧の動きも前線の動きも正確に予想され、雲も出たのに、結局雨は降らないということがある。雲の発達具合が予想と違ったのである(予想と違う雲ができた)。
「小さいスケール」まで正しかったが、実際の天気がハズレる
雷や雪の予報がハズレるのがこれにあたる。あと一歩だったのである。これらはめったに当たらない割には重大事故につながる可能性があるので、少しでも可能性があれば、予報として出さねばならない。

時間的にハズレる
全体の天気の流れはバッチリ予報通りだが、雨の降り出しが2時間早かった、といったことは多い。予報屋としては3時間程度のずれは「当たり」と考えているようである。それでは困るのだけどね。
予報はカンペキであったが、自分だけ予報がハズレたと思っている
自分のいるところだけが違う天気だったということである。山岳地帯では当たり前なのだ。「長野県北部の予報では晴れだったのに、雨ぢゃないか!」と、白馬の稜線でわめいても仕方ないのである。


ではここまでのまとめとして、家を出るまでのシュミレーションをしてみよう。

例1



さあ、明日は八ヶ岳・赤岳だ。天気はどうかな、お!

寒冷前線が通るんじゃないか。うわあ!ん?でも待てよ、これって午前9時の予想図だな。明日登山口につく11時には抜けてるんだ。なら、少し影響が残ったとしても、天気は快復していくはずだ。赤岳山頂に着く頃には快晴かもしれないぞ。でも、この2日間雨続きだったから、沢沿いの道はどうかなあ、予定は南沢だけど、山側を巻ける北沢のルートも頭に入れておこう。それと、ぬかるみもあるだろうからスパッツを出しやすいところに入れておこう。で、週間予報は…明後日は晴れかあ。天気に恵まれそうだな。おーい、母さんお茶!










例2


明日から久しぶりの北アルプスだわ。天気は…長野県晴れ、よし!あ、でもこれはこれ、天気図も見ないとね。

うーん、次の低気圧が来てるのかあ。そうすると明日はいいけど、明後日の朝あたりから影響が出るわね、その後寒冷前線の通過か…。予定ではちょうど稜線の小屋にいる頃だ。あそこの小屋にはテレビもあるし、天気図もある、こまめに情報を得られるのはラッキーね。でも、うまくいけば前線通過後にちょうど奥穂にいけるかも。秋だから毎日晴れることはないんだし、結構恵まれてるのかも。










なんて具合で、後は現地でTV・ラジオの情報、観天望気などによって修正していきます。オマケとして、悪い例を1つ





明日は山か、天気はどうかねえ。おい母さん、クモトリ山て何県?え?トーキョー?あれ、雨だよおい。 あーやめたやめた、家で寝てよう。 百名山ってのは雨が多いね、まったく。














このような人は百名山完登などできない。この場合雨は千葉、東京の沿岸だけで奥多摩以西の山は雨の可能性は少ないのだ。それと、雨の山もそれなりに楽しむ方法を考えてみてはどうであろうか?花を見るとかね。


2.移動中も空を見るのだ
これは誰でも無意識にやっていることだと思う。車なり列車なりで移動中、空は気になるものだ。それをもう少し細かく見ようということである。基本的なものを2つ挙げておく。

天気は西から変わってくることが多い(必ずしもそうではないが、低気圧関連の場合はこれで事足りる)ので、まず目的の山から西の方角にあたる空を見るようにするのだ。晴れているのか、それとも曇っているのか、どんな雲が出ているのかなどを見てみる。ここで、頭に入れてきた天気図と対応させることができれば言うことはない。

目的の山が見えるようならそちらを見るだろうが、たとえば、同じ位の標高を持ち、形状の似た山を通るようであればそれもかなり参考になるのだ。特にその山岳が目的の山岳より西にある場合は、目的の山岳の数時間後の姿を見ているのと同じといえるのである。ワタクシの場合、東京に住んでいるためこのような事はあまりできない(東から西へ移動することが多い)のであるが、いつも八ヶ岳や中アに行くときには富士山や、南アの見え方を気にしている。

応用
慣れてくれば天気図によってどちらの方角から天気が変わってくるかが判るようになる。注目する方角の空はそれで決める。

慣れるとこれだけで(天気予報を見ずに)その先半日くらいの予想ができる。これらは後に書く「観天望気」なのである。参考として、ワタクシがいつも見ているものをもう少し具体的に書いておこう。

*目的地:八ヶ岳/移動手段:新宿から中央線の場合、以下見る順である。
塩山付近から白根三山が見えるか
鳳凰三山にガスがかかっているか
甲斐駒にガスがかかっているか
八ヶ岳そのものはどんな見え方か
「すずらんの里」駅付近のトンネル手前を走っているときの真上の天気はどうか(これが特徴的*)
茅野駅到着寸前、前方北アルプス方面の空(西の空)はどうかまた、北アルプスは見えるか
これらの組み合わせで大体分かる。自分なりに何を見るかを決めて、それらの見え方と現地の天気を比べ、メモを取ったりしていくと意外な関係が見つかるかもしれない。*をつけたものなどはワタクシとしては「大発見」的なものなのである。


3.参考:もっと細かくやりたい人へ
この本の内容は「簡単にできて楽しめる山の天気予報」であるから、専門的な予報に首を突っ込んでいくのは本意ではないのである。どうしてもそうしたい人はいっそ気象予報士にでもなるとよい。厳冬期の高山ならいざ知らず、天気予報をするために山に行くのではなく、山を楽しむ道具として天気予報をするのだ、ということを忘れないようにしたい。
参考までに山で使えそうなものはこんなカンジである。
山で使うモノ
ラジオ・液晶テレビ・衛星携帯電話とノートパソコン(天気図をFAXで受像する)とあるが、後の2つは山では電池がもたない。
番組
ラジオ天気予報・TV天気予報・ラジオ気象通報・ラジオ高層気象通報・FAX気象図(各種専門的資料、要パソコン)



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