基礎編

7.晴天をもたらす現象


ワタクシとしてはこの本を「天気予報を見て他人が山行ないし行動を中止したときに、自分だけイイ思いをするには?!」という趣旨で書きたかった。しかし、山の天気についての質問は「雷」をはじめ、どうしても悪天候についてのものばかりであることから、ちゃあんとそこら辺を考慮して「危険を避けられるように」というスジを一本通し、ヒジョーに真面目に書いているのである。えらい。しかし、「悪天候!悪天候!やれ積乱雲だ、やれ危険だ」なんてことばかり書いているとやはり気が滅入ってくる。だいいち、低気圧やら梅雨前線やらには個人的に何の恨みも無く、単に他に表現し難いため便宜的に「悪」という言葉を用いているだけなのだ。そうなのだ。かつて台風で学校が休みになって嬉しかったではないか、おお、そうだ、クーラーの無い我が家では夏の夕立は救いの神ではなかったか!水不足だって解消されるぞ、そうだ、そうなのだ!ムキーッ!

えと、何の話だったか。

あ、そうか。やっぱ山は晴天に限る、ということであった。ここではその陰の立役者を紹介していく。


1.逆転層
なにがしかの理由で、ある高度からは上空へ行くほど気温が高くなっていく状態(フツーの空気層は上空に行くほど気温が低くなる)になっている空気の層ができることがある。これを逆転層と言う。
サラダのドレッシングが分離したような状態を頭に浮かべてほしい。あの上の層(油の方)が逆転層、下の層がフツーの空気層だとする。 フツーの空気層中は常に自分より周りの気温の方が低いため、順調に上昇してきた暖かい空気だが、逆転層に到着すると突然周りの気温が上がり始め、「おろ?オレの方が冷たいよ?ん?ん?」とそれ以上上昇できなくなるのである。つまり、もし雲ができたとしてもたいした高さにはならないということで、悪天候にはならないのである。逆転層エライ。
逆転層は目には見えないが、間接的に存在を知ることはできる。ご来光のとき雲海がびっしりという光景はよく目にするが、あの雲海と言うのは逆転層によって作られているのである。逆転層はあの辺の高さ、高度1500mから2500mあたりによくできる。高山稜線だけが晴れているのでヒジョーに気分がいいのだ。しかし、残念ながら風が吹くと層がかき回されて消えてしまう。雲海は風の無い夜にできやすい。


2.高気圧
高気圧内では「大きいスケールの下降流」があるので、雲ができにくいのである(局地的に強い上昇流がある場合はそこだけに雲ができることもある)。特に移動性高気圧は大陸育ちであるので高気圧内の空気は乾燥しており、それ自体は雲ができる条件を全く持っていないのだ。エライ。ただし、中心がずれると風が吹くようになり、山ではよろしくない。ま、いいや

移動性高気圧内はゼッタイ好天
もう一度、エライ。
いっぽう太平洋高気圧は海育ちなので高気圧内の空気は湿っているために、局地的に強い上昇流があればそこだけ雲ができてしまうのである。しかし「日本の夏!」の気分の良さはやはりこのヒトのおかげなのだ。ところで「海育ち」と言われただけで「何だかイイ奴」という印象を受けてしまうのは何故なのであろうか。


3.冬型
日本海側や北アルプスでは雪となるが、八ヶ岳以東は晴れることが多い。これは吹いてくる風がさんざん雪を降らせた後のからっ風であるため、空気が乾燥して雲ができないからである。かなり強い冬型だと八ヶ岳東斜面まで雪雲がやってくるが、ワタクシの経験では上空の寒気核(寒気の中心部)の温度が−36℃以下であるとそうなる。


4.寒冷前線
じっと待つのである。寒冷前線には北よりの冷たい風が吹き込む。冷たい空気は重いので下降しながら吹いてくることもあり、寒冷前線通過後は雲ができないのである。




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