基礎編

5.「大きいスケールの現象」


1.低気圧・温暖前線・寒冷前線
日本付近の低気圧にはたいてい温暖前線と寒冷前線がおまけでくっついてい るため、この二つが低気圧の一部ないしは部品と思っているヒトもいるかもしれないが、本来それぞれ独立したものなのだ。前線を持たない低気圧もあるし、低気圧がなくても前線は発生するものだからだ。まあどちらにしても、このヒト達はいつもつるんであまりよろしくない相談をしていそうである。

低気圧
低気圧自体は「どうせ周りより気圧の低いところさ、けっ、悪かったな」と、ただそれだけのチンピラである。では何故たったそれだけのものが、悪天候の代表取締役のように成り上がれるのか。「風」のときに述べた様に、低気圧中心付近には周囲から風が吹き込んでくる(地球の諸事情により真っ直ぐでなく渦巻き状に吹き込んでくる)ため、 いわば空気が定員オーバーの状態になる。すると空気は地面に溶け込むことはできないので仕方なく上昇していくことになる。
低気圧中心付近では上昇流が起こる仕組みになっている
のだ。しかし、中心付近はまだカワイイ方で、低気圧は周辺部のほぼ決まった位置に「前線」というものを作る素質を持っているのである。これがかなりの悪天を生む。

前線とは何であるか?
日本付近では「北風は冷たい」「南風は暖かい」と相場が決まっている。図を見ると分かるように、低気圧周辺は暖かい空気と冷たい空気の出会いの場となっているのだ。お互いに勢力を広げてきた彼らが出会うとどうなるか、まず、素直に混ざり合うということはない。そうかそうか、じゃ、「どけよ、てめーら」「あんだと、やんのか!んなろー」ということになって、それで血の雨が降るのか、と覚えてもかまわないのだが、ここんところは他にも応用したいので丁寧にやっていこう。

暖かい空気は冷たい空気より軽い
ため「へへ、まあここは穏便にいきましょうや旦那方」ということで、どんな出会い方をしても暖かい空気は上に、冷たい空気は下にいくのだ。そして今まさに牽制し合いながら均衡を保っている現場が、その名の通り「前線」だと考えておけばいい。この両側では気温、水蒸気の量などまったく別世界である。前線が通過すると突然寒くなったりするのはこのためなのだ。さて、どんな出会い方をしても、と言ったのは次のような場合があるからで、

暖かい空気の勢いが強い
冷たい空気の勢いが強い
双方同じ勢い

順に温暖、寒冷、停滞前線となる。勢いが強い方に押され前線は移動していく(あまり動かないので停滞前線という)。
一つの結果が出た。「暖かい空気が上へ」というのは基本中の基本「雲ができる」ということである。雲ができない前線というのは有り得ない。
さて、 低気圧に伴うのは温暖前線と寒冷前線である。詳しい説明は後で述べるがそれぞれの特徴は

温暖前線は比較的(あくまでも「比較的」)穏やか
寒冷前線は激しい

のようになる。また生成原理上、温暖前線は低気圧の進行方向前方に、寒冷前線は後方にできる。低気圧の進行方向は必ず北から東の間である。まあここでは、
温暖前線はそのときよくてもいずれ寒冷前線
寒冷前線→積乱雲→強雨・雷
と覚えておきたい。

低気圧とその周辺…それでは低気圧の周辺の状況を見ていく、図と表を見てほしい。この内容はカンペキに覚えたい。

位置・・・雲種類/風向 風力/気温/ポイント

A ・・上空の層状の雲/南より・弱/中/数時間後に曇り

B ・・層状の雲と対流雲/南より 中/中/山岳では 中程度の雨

C ・・低空の層状雲/南より 弱/高/ぐずつく感じ

D ・・対流雲 (積乱雲)/変化 突風もある/中から低/激しい雨,雷雨もある

E ・・なし/北より 中/低/晴れる







*注意
「雨」の項で述べたように山に上昇流はつきものなので、そのぶん対流雲ができやすい。よって雨は平地より強めに降る。温暖前線も油断できないのだ。また、低気圧中心の気圧が低いときは全般的に強風にも注意する。

山では前線の影響が長引くと言われるのは何故なのか
暖かい空気と冷たい空気は当然「面」で接している。これを前線面という。「前線」とは、正しくはある高度の水平面と前線面とが交わった線(その高度での暖冷の境界線)のことであり、高度によって位置は異なる。前線のできかたからして、前線面は傾いているからである。TVの天気図に書いてあるものや、普通に「前線」と言われるのは正しくは地上の前線(地上前線)である。では、たとえば地上3000mの水平面での前線の位置は地上に比べてどうなっているかを考えてほしい。冷たい空気がある側にずれていることが分かるだろうか(図)。このことから、山では地上に比べて「温暖前線は先に通過する」(通過後も回復しない)「寒冷前線は遅れて通過する」ことが分かる。前線の影響が長引くというよりは「低気圧の影響を受ける時間が長い」ということなのだ。


2.高気圧
高気圧は低気圧とは逆に空気を吹き出す。出身地から空気をお土産に持ってきて、配る、というイメージがいいと思う。高気圧は好天の代名詞とされている。ほぼ正しい。そのためかあまり注目されておらず、知らないことが多いのではないか、と思う。結構フクザツなことを仕掛けてくる奴もいるのでハンパな知識で安心しないことである。また、知っておくとトクをすることもある。その辺をふまえつつ、高気圧のいくつかの種類を挙げてみる。

移動性高気圧
高気圧のクリーンなイメージはすべてこのヒトのおかげなのである。非の打ち所はあまり無く、もろ手を挙げて歓迎してよい。春や秋になると低気圧と交互にやってきて日本列島を覆い、「いやーわりかった、わりかった。雨だったんでしょお、まったく低気圧の奴ぁしょうがないねえ。」と穏やかな晴天を与えてくれる。高気圧内の空気が乾いているからである。移動の速度も安定しているという律義さもあり、続けて天気図を見ていれば次はいつ来るかも分かる。予報する側も当てやすいが、シアワセはそう続かないもので台風が引っ掻き回しにくる。ザマミロ。

太平洋高気圧(小笠原高気圧)
夏になると週休2日くらいで日本列島を覆う。プールの監視員のアルバイトのような高気圧である。晴天となり日射が強くなるが、高気圧内の空気は湿っているために夕立となることが多い。夏の稜線上では午前中に早くも雷雨となることもある。しかし、さんざん暴れた後は再びケロっと晴れる。これに覆われた状態の天気図を「クジラの尾型」というがどう考えてもそうは見えない。どちらかというと「ジュゴンの頭型」である。

シベリア高気圧(大陸の高気圧ともよく言われている)
冬が近づくと南下して日本海に張り出してくる軍隊のことである。その名の通り普段はシベリア大陸に居る。総指揮官は「冬将軍」という人らしいが、随分昔から変わっておらずかなりの年になるはずだ。もしかすると日露戦争が終わったことを知らないのかもしれない。毎年日本海側に、冷たく乾いた空気を吹き出すにもかかわらず大量の雪を降らせるという、フクザツな攻撃を仕掛けてきて被害を与えるが、日本国としては憲法第9条があるため手は出さないのである。この軍隊が攻めてきた状態の天気図は「冬型(または西高東低)の気圧配置」といわれる。こうなると八ヶ岳より東は晴れる。

高気圧から吹き出された冷たくて乾いた空気は日本海を渡ってくる。日本海で熱と水蒸気をとり込みながら進んでくるため、結局湿った暖かい空気に変化し、雪雲が発達する。衛星写真で見るとすじ状に見え、「すじ状の雲」は冬場の天気予報ではおなじみのコトバである。

オホーツク高気圧
夏でもオホーツク海にこの高気圧があると、冷たい空気が吹き出し北の太平洋沿岸では気温が低くなる。また、この風は冷たいといっても湿っているため低い雲ができる。関東地方の予報は概ね悪くなるが安易に山行を中止するのはよくない。後日「いやーあの日はヨカッタよお、雲海びっしりでね、え、天気?ピーカンよ、ピーカン。東京は雨だったの?そんなこともあるんだ、残念だねえ、(遠くを見つめて)見せたかったねえあの景色…」とさんざん自慢され、つい後ろ手にビールびんを握り締めてしまう…ということになりかねない。
この高気圧以外に悪天の原因が無い場合、関東にかかっている雲は低い雲である。低い雲から大荒れになることは少ない。しかも山の上のほうは雲の上にぽっかりと出ることが十分に考えられるのだ。ちなみに自分の基準では1500m以上の山なら必ず行くようにしている。ただし、防寒防水対策はしっかりとする(低いところでは雨も降るし、寒い)。

3.台風
紅葉の山が見たければ、どうしてもこいつと付き合うことになるのである。ところで、台風に関する予報はあまり正確でない、という印象はないだろうか。それはその通りで、少し先の台風の動向は殆ど予想不可能なのだ。したがって予報はコロコロ変わる。そこで頻繁に情報(これは「予報」とは言い難い)を得ることが重要となる。しかし山ではそれができないので、台風が通過しそうな山へは行かないのが普通ではある。まあ、この辺まで読んできた人は既にフツーでないヒトになってしまっている可能性があるので、むやみやたらと中止しないためのヒントとしていくつか述べる。






進行速度と台風内の風速の関係で
台風は進路の右半円で風が強く、左半円では弱め












台風が来たときの雲の写真というのを一度は見たことがあると思うが、中心から随分遠いところまで渦巻き状に雲がある。台風は回転しながら進むのであの雲の渦巻きも回転するのだ。中心以外の帯状の部分をスパイラルバンドといい積乱雲が並んでいるのである。これがかかれば雨が降るし、回転によって去れば晴れたりするので台風の進行方向では早くから天気が崩れ、雨が断続的に降ることになる。




















台風というのは低気圧の一種であるから風を引き込む。台風が通過しても、台風の南側に入った山では南風が吹き、引き続き雲ができるので、台風一過は快晴!とは言い切れないのである。
台風通過後もその南に入るとしばらくぐずつくことは頭に入れておいた方がいい。
特に台風が日本海に抜けたとき、太平洋側の山はこうなる。

天気予報の「予報円」に進む確率は60%である。そうなるように作られているのだ。あんなにデカいのにたった60%!それほど台風が手強いのか、それとも予報屋が情けないのかは分からない(たまにはかばってやる)。

ま、行くなら気をつけて。



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