基礎編

5.「大きいスケールの現象」後半



4.梅雨前線
梅雨前線のような停滞前線は東西に伸びている。前線付近(南北に100kmくらいの範囲)は上昇流が起こり雲ができる。しかしそれ以外でも、前線の南側にある山は雲ができる。それは南側は暖かい空気であり、つまり水蒸気量が多い。そして山に上昇流はつきものであるから、という基本中の基本を思い出せばよいのである。このことからワタクシは、

前線の北100kmの線から南側の山では天気が悪い
という基準を持っている。

停滞前線自体による雨というのは概ねそんなに激しいものではない。空気の 流れが弱いため上昇流も弱いからである。しかし、梅雨の終わり頃は注意が必要で、前線に沿って小さい低気圧が次々に東へ進んでくる。これは曲者で、強い南風を吹き込むため多量の水蒸気が運ばれ、さらに強い上昇流が起こる。これが延々続くため大雨となる。天気図上で、前線上に2ないし3個の低気圧が並んでいたら要注意である。平地でも毎年集中豪雨の被害が出ている。また、登山シーズンを寸前に登山道や林道が崩壊するので関係者は頭の痛いところである。さて実は、

停滞前線が関与した天気予報はよくハズれる
のである。これを頭に入れておきたい。前線の動きが予想しにくいのと、雲の範囲が南北に狭いため、位置の予想が少しずれると、全く違う天気になるからなのだ。梅雨の時期は予報屋がもっとも信用を失う時期の一つで、梅雨の終わり頃にはTVを見ていても「梅雨明けしないのはオマエのせいである」という気までしてくるし、予報屋も「スイマセン」などと言っているから不思議である。ところで、梅雨明けは誰もが待ち遠しいものであるが、最近の「梅雨明け宣言」はなんつーか、はっきりしないね、という人は多いと思う。現在では「〇日頃梅雨が明けたもようです」という、「実はあのとき型」の言い方になっており、天気予報が全体的に予報というよりプロ野球ニュースとか大相撲ダイジェスト的なものになっている傾向を顕著に表している。





5.秋雨前線
梅雨前線と同じく停滞前線の一種である。停滞するのは普通9月中旬から下旬だが、この頃は台風が来たりで天気の方はめまぐるしく変わるので、前線はあまり意識されないのである。そんなわけで食中毒が多くなる。この前線は単体ではおとなしいが、まだはるか南にある台風に刺激されて大雨を降らせることがあるので、そんな時は注意である。「台風はいったいどんな手を使って刺激するのであるか。」という質問の答えは、公共の良俗に反する内容となるためここでは書けない。

6.冬型
「冬型」というモノがあるわけではなく、日本列島の西側に高気圧(シベリア高気圧)、東側に低気圧がある状態(いわゆる西高東低)の呼び名である。天気図では日本列島に対して等圧線が縦に走り。この間隔(等圧線の数)で、風の強さが判断できる。風の強さは見逃せない。稜線ではかなり強い西風が吹くのである。さて、風の強さはそのまま「冬型の強さ」と考えてよい。また、「ひまわり」の雲画像では「すじ状の雲のできはじめが大陸に近いほどシベリア高気圧からの寒気が強い」ことも知っていると便利である。ふつう冬型になると日本海側では大雪が降り、北アルプス、上越の山などは吹雪となるが、八ヶ岳以東は晴天になることが多い。大体木曽谷あたりが境目だと思ってもいい。しかし、冬型の強さによってビミョーに変化する(冬型が強いと八ヶ岳まで雪が降る)ので、
冬型が強いほど雪の範囲は東に広がる
と覚えておく。ちなみに八ヶ岳や南アルプスの雪は主に南岸低気圧によるものである。太平洋岸で雨が降っているとき、この辺の山は雪になっているのだ。

吹雪にやられたくなかったら
冬型の強さは、低気圧の位置、低気圧の発達度合い、高気圧内の寒気の強さ(冷たさ)で決まる。北アルプスなどで冬型による吹雪につかまったら、またはつかまりたくなかったらまず低気圧の位置を知ることである、ラジオが無ければ想像する。冬型が緩む時間を予想するのだ。普通冬型は低気圧がオホーツク海にあるときが最も強い。それが消えれば冬型は緩む。あらたに南岸低気圧が発生すればさらに緩み、低気圧の南岸通過中が最も安全である。こんどは低気圧が救いの神なのである。間違えてはいけないのはその吹雪が何を原因としているかである。たとえば北アルプスと南アルプスでは全く異なるし、同じ北アルプスの吹雪でも日本海低気圧によるもの、しかもその中に温暖前線、寒冷前線と何通りか考えられるのだ。この判断を誤ると命取りになる。本格的な冬山には生半可な知識は通用しないのだ。
全般的に冬型が弱い「暖冬」と言われる年は東京などに雪が多く降る。 南岸低気圧が本州の近くを通るからである。













7.気圧の谷
この「気圧の谷」と次の8.の「上空の寒気」は情報としては得られにくい「上空の気象」である。これらはTVの地上天気図には表れず、TVの予報屋が口頭で解説を加える程度のものなのだが、割とよく聞く言葉である。特に「気圧の谷」の方は「ナウシカ」という名の少女が住んでいることでも有名な風の強い谷である。これら「上空もの」は山の天気にとって非常に重要である。ただ、最近では高層の気象通報なども放送されたり、FAX資料等も入手できるのだが、そこまでやる必要は全然無いのである。冬の剣や谷川に行く人はお守りがわりに持っていってもいいかもしれないが、焚付にもなるまい。
本来気圧の谷というのは上空に限ったものではないのだが、TVでよく聞く「気圧の谷」とは上空のものをさしており(イタ仕方ないのでワタクシも今後そうすることにする)、地上に低気圧が無いときに使われる(何故かは後で分かる)。周りより気圧が低くなっている場所のことだが、低気圧との違いは低気圧の等圧線が円形に閉じているのに対し(四方どっから見ても気圧が低いことになる)、閉じていない(三方向に対して気圧が低い)ということである。低気圧は「穴」、気圧の谷は「ミゾ」のようなもんと考えるといい。まあ、基本的には同じものである。さて、上空と地上では気圧配置からして異なる。たとえば地上の低気圧の真上にそのまま低気圧があるわけではないのだ。金太郎飴とは違うのである。しかし、全く関連が無いのではなく、たいがい地上の低気圧の真上には気圧の谷がある。実はこれは話が逆なのであって、上空に気圧の谷ができたから地上に低気圧ができたのである(気象は上からやってくる、と考えるものなのだ。なぜなら上空のものの方がスケールが大きいからである)。するとこういう場合もある。「上空に気圧の谷があるが地上には低気圧がない」つまり、

気圧の谷によって山だけが悪天候になる場合がある
気圧の谷の影響はほぼ低気圧と同じである。さて、予報の段階ではどうか、地上は「晴れ」とはいかないまでもさほど悪い予報は出ない。地上天気図を見ても悪天候の要素がわかりにくい(地上にも気圧の谷があるが、前線も無いことが多いし、イメージが湧きにくい)。何も知らずにこのまま山へ行くと痛い目に会うかもしれないのである。
この場合は予報屋が「気圧の谷の影響で」という言葉を使うのが唯一のヒントである。
「気圧の谷」というコトバには注意
することだ。登山者や、どうなったかは知らないがフーセンおじさん等のためにわざわざ言っているのである。
TVの天気予報は地上の天気であるが、山の天気は「上空の天気」であることを忘れないように。


8.上空の寒気
これには全くいいところが無い。見えないところで悪天候を次々と生み出す黒幕的存在である。ところでこれは「かんき」と読むのである。「さむけ」ではない。
空気は上空の方が冷たいのは当たり前であるが、上空の寒気と言っているのは「いくら上空ったってあんた、ちょっと冷たすぎんじゃないの?」という相対的なものである。このような状態のとき、上空の寒気はすかさず強い上昇流を引き起こす。「はい、いらっしゃい、いらっしゃい。そこの暖かそうな社長!ね、どうすか。」という具合である。その下層に水蒸気(暖かい空気)があれば、暖かい空気というのは軽いので喜んで上昇していく。すると「あ、ありがとうございまあす。はい、お一人様ごあんなあーい」となり、背の高い雲ができる。

寒気の中心の真下では積乱雲が発達しやすい
のである。また、

上空の寒気は動きが遅い

ため同じ状態が持続する。「雷三日」といって雷雨は三日くらい続くといわれるが、この寒気が原因である。さらに、この東の縁には南風が上昇しながら入り込む仕掛けがあるためそれが続くと大雨になる。

東の縁の真下では雨が降り続き大雨になる

上空の寒気というものは一年を通して現れる、と思っていい。しつこいようだが「さむけ」ではない。また、念のため言っておくが「上空」はもちろん「うわのそら」と読むのである。



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